肝疾患診療

専門とする肝疾患診療について(特色とする治療法)

特にC型慢性肝炎については新しい治療法を用いて肝硬変、肝癌への進展を予防することができます。慢性肝炎は自覚症状がないまま、20~30年で肝硬変、肝癌へ進展します。正しく疾患を理解して、一人一人にあった治療を受けましょう。肝臓が悪いと言われた方はまずその原因をしらべます。胆石など胆道疾患、甲状腺疾患、骨・筋肉疾患でも肝機能検査の異常を示すことがあり、これらを除外する必要があります。これらを除外した肝疾患の主な原因は

  1. ウイルス性
  2. 薬剤性
  3. 自己免疫性
  4. アルコール性
  5. 脂肪肝など代謝性

の五つです。原因によって治療法は異なります。



肝疾患の診断

肝疾患の診断は自覚症状、輸血歴、薬剤歴、飲酒歴等の既往歴を聞き、黄疸や浮腫、肝臓が腫れていないかの診察をしたうえで検査をします。第一段階の検査として血液検査と超音波検査を行います。主な検査について説明します。

GOT/GPT(ALT/AST)・・肝細胞に含まれる酵素で炎症によって血液中に出てきます、肝炎の活動性の指標となります。

ALPアルカリフォスファターゼ・・胆汁の停滞、胆管の通過障害で上昇します。成長期の子供では骨由来ALPが高値をしめし、肝障害と間違われることがあります。甲状腺疾患でも上昇がみられます。

γGTPガンマジーテイーピー・・脂肪肝、習慣性飲酒によって上昇します。

血清アルブミン、コリンエステラーゼ、プロトロンビン時間・・肝臓で合成されるタンパク質であり、肝硬変や栄養障害で低下します。

ビリルビン・・ビリルビン代謝機能、黄疸の時に上昇します

血小板数・・肝硬変などで肝臓が硬くなると血小板数が低下します

ウイルスマーカー・・A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかをHA抗体(IgMHA抗体)、HBs抗原、HCV抗体を測定してしらべます。HCV抗体が陽性の場合はHCVRNA(定量)でウイルス量を測定、HBs抗原陽性の場合はHBVDNA定量でウイルス量を測定します。

腹部超音波検査・・肝臓の形に異常がないかをしらべます。正常の肝臓は表面がツルツルですが肝硬変になると表面がでこぼこして全体に小さくなり、脾臓が腫れてきます。肝臓の内部に腫瘍が出来ているか、胆管が拡張していないか、脂肪肝かどうか等がわかります。苦痛がない検査なので手軽に繰り返し受けられます。腎臓、膵臓、胆のう、膀胱、腸管の状態も見る事が出来ます。必要に応じてCT、MRI検査を提携病院に依頼します。



肝癌の主な原因となるC型慢性肝炎

現在日本において肝硬変、肝癌の主な原因はウイルス性肝疾患です。特にC型慢性肝炎によるものが70%を占めています。

C型慢性肝炎といってもいろいろな状態があります

  1. 既感染 : かつて感染した跡が残っている人、抗体は陽性ですが、抗体価は低く血中のウイルス(HCV・RNA)をしらべると陰性です。既感染は治療の必要はありません。
  2. 肝機能正常の方: 血中にHCVRNAが陽性の場合、肝機能検査GOT/GPTが正常値でも数年以内に活動性となり、線維化が進むので治療を受けた方がよいとされています。
  3. C型慢性肝炎(活動性): 血中HCVRNA陽性でGOT/GPTが異常を示す人、線維化が進み易く発癌のリスクが高まります。
  4. C型肝硬変: 血小板数が10万以下となり線維化が進んだ状態、発癌リスクが高い。
  5. C型肝癌: 肝癌が発生した人、内科的または外科的治療を受ける必要があります。
    C型慢性肝炎からの発癌リスクは線維化が進行したほど、また年令が高いほど上ると言われています。65才以上、血小板数が15万未満の状態が高リスクとされています。リスクが高いほど、早期発見のため腫瘍マーカーや、超音波検査、CTなど画像診断を綿密に行う必要があります。またウイルスを排除することがリスクを軽減させることになります。治療前の発癌リスクが高い場合ウイルスが陰性化しても発癌することがあります。治療でウイルスが陰性化した方も定期的な画像診断を受けてください。



C型慢性肝炎・肝硬変の最新治療 2015年9月

 ― インターフェロンベースからインターフェロンフリへ ―

(1)C型肝炎ウイルスの発見 1988年

1970年代大きな手術の際に輸血をすると黄疸をきたす輸血後肝炎が頻発していました。A型肝炎でもB型肝炎でもない謎のウイルス非A非B肝炎について世界の学者が研究を競っていました。1988年遂に米国カイロン社がウイルスを発見しC型肝炎ウイルスHCVと名付けられました。1990年以降日本では献血時にHCV抗体を測ることによって、輸血後肝炎は急速に減少ました。

(2)インターフェロン治療の歴史 1992年

C型慢性肝炎の治療は1992年以来インターフェロン(注射薬)がウイルスを駆除しうる唯一の治療法でした。しかしウイルスが持続的に陰性化する(SVR)率は当初10%以下と低く、発熱、倦怠、うつ、脱毛など副作用も強いので、ウイルス量が少なく、遺伝子型グループ2の効きやすい人を対象に治療が行われていました。その後治療法が工夫されて治療成績が改善して行きました。

日本人のC型肝炎の70%は難治性の遺伝子型・グループ1で、以下様にインターフェロンを基礎とした治療法の進歩がありました。

【2000年】
 インターフェロン・リバビリン併用 24週 SVR 20%
 抗ウイルス内服薬リバビリンとの併用

【2004年】
 ペグインターフェロン・リバビリン併用48週 SVR  40%
 血中濃度が持続し週1回の投与となったペグインターフェロンとリバビリン併用で治療成績が向上

【2011年】
 ペグインターフェロン・リバビリン・テラプレビル3者併用 
 ウイルスへ直接作用し増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬テラプレビルとの3者併用24週でSVR  90%。皮膚副作用強く一般使用されず
 2013年ペグインターフェロン・リバビリン・シメプレビル3者併用 
 副作用の少ないプロテアーゼ阻害薬シメプレビルノとの3者併用24週でSVR  90%とインターフェロン治療の完成型となる。

(3)インターフェロンフリ―治療への転換

20年以上インターフェロンベースの治療が行われていましたが、2014年9月インターフェロンを使わない、内服薬のみによる「インターフェロンフリ―治療」の第一弾が開始されました。

ダグルインザ・スンベプラ併用療法
ダクルインザ(ダクラタスビル)はHCV NS5A 複製複合体阻害剤
スンペブラ(アスナプレビル)はHCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害HCVの複製、増殖を阻止する。いずれもウイルスへ直接作用し増殖を抑える薬剤です。
当初はインターフェロンが使えない人に限られていましたが、2015年よりグループ1の第一選択薬として使用が許可されました。しかし耐性変異の有無によって効果に差があり、治療後の薬剤耐性が問題になりました。

(4)C型慢性肝炎・C型代償性肝硬変に対するインターフェロンフリ―新時代  

ジェノタイプ2(グル―プ2)に対して2015年5月
ソホスビル(ソバルディ)+リバビリン内服治療12週間
140例の国内治験成績でウイルス持続陰性化SVRは 96.4%
副作用は、貧血など軽微、腎機能低下例、非代償性肝硬変は対象外となります。 

ジェノタイプ1(グループ1)にたいして2015年9月発売
レジパスビル・ソホスビル配合錠(ハーボニー錠)

国内第3相臨床試験157例の成績は 前治療再燃例 39例中SVR39例、前治療無効例 25例中SVR25例
代償性肝硬変なし117例中SVR117例、代償性肝硬変あり40例中SVR40例
65才以上100例中SVR100例、65才未満57例中SVR57例 
内服12週間でウイルス持続陰性化SVR100%の成績が報告されています。
副作用は かゆみ5例(3.2%)、口内炎4例(2.5%)など軽微なもの、腎機能低下例、非代償性肝硬変では対象外となります。

2015年9月以後C型慢性肝炎治療の第一選択として
グループ1の方は(ハーボニー)12週、グループ2の方はソバルデイ・リバビリン12週となっていました。

2017年9月最新のパンジェノタイプが登場、最短8週間治療でウイルスが消失します。グループ1でも2でも慢性肝炎なら8週間治療、グループ1,2以外や代償性肝硬変は12週間治療となります。主な副作用は、かゆみ(4.8%)、頭痛(4.2%)、倦怠(3.0%)、ビリルビン増加(2.4%)でした。

健康保険をつかっても高額な治療法であり、行政が助成制度を行っています。肝臓病専門医の診断書と依頼書を添えて保健センターまたは府庁に提出し約一カ月で手続きができますと自己負担1~2万円で治療を受ける事が出来ます。

当院でのインターフェロンフリー治療による成績:2019年10月時点で、18名の方が治療をうけておられます。治療を終了し6か月以上経過した14例全例でウイルスが消失し、肝機能が正常化しています。(1名は他の疾患のためやむなく中断)インターフェロン治療に比べて副作用が軽く、高齢者でも通院治療が行えます。当院では高齢者は70歳代が1名ですが、80才でも治療は可能です。



非アルコール性脂肪性疾患 NAFLD

肥満は高血圧、糖尿病、高脂血症など生活習慣病の誘因の一つとされています。これら高血圧や糖尿病、高脂血症は長期間放置すると脳梗塞、心筋梗塞、腎不全など生活、生命を脅かす疾患につながり、さらには老年期の認知症発症リスクも高めています。

肝臓病と言えば日本ではC型慢性肝炎、B型慢性肝炎が多いのですが、ワクチンや予防法、そしてインターフェロンなどの治療法の進歩などによって、治る人が増え新たな感染者はほとんどいなくなっています。

一方で運動不足、栄養状態の向上に伴い肥満、いわゆる脂肪肝の人が増加しています。
脂肪肝の約9割は単純性脂肪肝で進行性ではありませんが、10~15%は炎症を伴い、線イ化が進行し肝硬変の原因になるNASH「非アルコール性脂肪性肝炎」が含まれます。

NASHとはアルコール飲酒によるものではない、炎症を伴う肝炎という意味です。
最近単純性脂肪肝とNASHをあわせて非アルコール性脂肪性疾患NAFLDと呼ぶようになりました。

【NASHの原因】
 脂肪が沈着した肝臓に、鉄の沈着など酸化ストレス、体質的要素が加わり発症する。

【NASHの診断、診断方法】

  • 超音波検査、CTで脂肪肝があること 
  • ウイルス性肝炎(B型、C型)がないこと
  • アルコール性でないこと     
  • 肝機能異常(GOT, GPTなど)、線イ化マーカー
  • 糖尿病の傾向、中性脂肪が高い   
  • 肝生検による組織像(入院が必要)

【NASHの生活療法】

  • 低カロリー食、有酸素運動により体脂肪・体重を減らすこと
  • (脂肪分の摂取を減らすこと)・・・・糖尿病の生活療法とほぼ共通
  • 調節体重(標準体重と現在体重の差x1/4)から総エネルギー量を決める
  • 骨格筋を減らさない減量が理想
  • 鉄分の摂取を減らすこと
  • 脂質の質を改善させる:地中海型の食事(オレイン酸など不飽和脂肪酸が豊富なオリーブ油、食物繊維で食後血糖を抑えるナッツ、野菜、果物)が望ましい

【NASHの薬物療法】

  • ウルソ
  • ビタミンC、ビタミンE
  • インスリン抵抗性治療薬(糖尿病治療薬)
  • 寫血療法

NAFLDは体質と生活習慣による肝臓病です、体脂肪を減らす生活習慣が基本であり、これは糖尿病、高血圧、脳梗塞、心筋梗塞、認知症を予防することにもつながります。



認知症について 「認知症予防 いつやるの?今でしょ!」

高齢化が進むにつれ認知症の発症が増加しています。以前多かった血管型認知症に替わってアルツハイマー型認知症(以下ア型)が多くを占めています。ア型では脳の委縮や記憶装置である海馬の萎縮が見られます。当院に通院中の高齢患者さんの中からもア型の方が年間数名見つかっています、この方々はどのような人だったのでしょうか。9割の人が高血圧、高脂血症、糖尿病のうちどれかをもっており、4割が心筋梗塞、狭心症、脳血管障害など動脈硬化症の既往がありました。また若くして認知症になる方は、高齢で発症する人に比べて、糖尿病の合併率が高い傾向があります。外国の研究でも糖尿病は認知症になりやすく、日本の研究でも血糖が高い人が認知症のリスクが高いと判明しています。さらに糖利用機構の障害が脳血管障害だけでなく脳細胞萎縮をきたすのではないかと言われています。「中年太り」という言葉が昔からありますが、車社会になり、運動不足、飽食、高カロリー摂取がその原因でこれらが生活習慣病である高血圧、高脂血症、糖尿病を引き起こし、この生活習慣病から認知症が発症しているのです。仕事が忙しい働き盛りのあなた、認知症予防するのは高齢になってからでは遅いのです、いつ予防するの?、やるのは今でしょ!。

というわけで認知症の予防法は生活習慣病を予防することです、昔から言われている「規則正しい生活、適度の運動、腹八分目・・・」、朝食をしっかり食べて、寝る前の食事は控えめに、野菜を多く取りましょう。車にはなるべく乗らずに歩いたり、バスや電車を使いましょう。従来の健康法と全く同じことが認知症でも通用するわけです。今からでも遅くはありません、明日から生活を改めて皆さんで認知症を予防しましょう。


認知症の診断

認知症の診断方法は、長谷川式などの記憶力の聞き取り調査、歩行障害や麻痺の有無など神経学的所見と、頭のMRIなどによる画像診断で行います。認知症の型は①アルツハイマー型、②脳血管型、③レビー小体型 その他で①と②の混合型が実際には多くを占めています。レビー小体型はパーキンソン症状と幻覚、起立性低血圧などの自律神経症状が特徴です。また認知症に似た状態が硬膜下血腫、甲状腺機能低下症等でも見られますので除外診断が必要です。

認知症は知らない間になっている事が多く、ちょっとおかしいなと思ってから何年かで明らかな状態になってきます。
診察室では生活状況、実態がわかりませんのでご家族の協力が大切です。一人暮らしの方はどうしても進行した状態にならないとわからないことが多いです。

初期は不安感、抑鬱、不定愁訴などがみられます。やがて繰り返し言葉、物盗られ妄想、昼夜逆転、幻覚等が出現します。
治療法としては、

  1. 非薬物療法
    忘れる事自体が不安なので、本人を否定したり怒ったりすると混乱して症状が強くなります。否定しない、説得しないことが原則です。
    昔のお話を聞いてあげましょう。デイサービスで心地よく過ごすだけで症状が軽減する場合がよくみられます。状態に応じて生活上危険のないように環境を整備します。

  2. 薬物療法
    血管型に対しては、脳梗塞予防、血圧、糖尿病の治療を続ける事が治療になります。アルツハイマー型に対しては現在進行を遅らせる3種類の治療薬があります。したがって認知症の型がどの型であるかを診断する必要があり、出来るだけ頭部MRIをした方が正しく診断できます。状態によっては診断が難しい場合もありますが、手遅れという事態にはなりません。

認知症の診断、治療、介護、環境整備については、いづれも家族と地域支援センターと医療の三者が協力しないと立ちゆきませんのでご理解をお願いいたします。